TIAMO3(東方神起ホミン小説)
廊下を突っ走ってエレベーターの前でイライラと…思いついて電話を取りだそうとしてはたと気付く
リュックにいれたまま…
舌打ちして階段に向かおうとして背後からかかる声
「先輩…どうしたんですか血相変えて」
見るとSHINeeのミンホが後ろにメンバーを引き連れて笑いながら小走りでやって来る
「…なんだお前か」
思わず呟いてしまった台詞に冗談混じりの抗議
「なんだって何ですかなんだって」
明るく笑いながらヒドイですよ〜なんてハグしてくるし
……いつも思うけど人懐こい犬みたいな奴だ
人見知りのチャンミンが一番先に仲良くなった後輩がミンホだった
最もミンホの方から屈託なく話しかけまくったんだろう…スジュのメンバーともソシ達ともはたまた別の事務所のグレープにまで可愛がられているらしい
根っからの後輩体質…人懐こい笑顔と怖いもの知らずの子どもみたいなやんちゃな魅力の持ち主も最近は随分と大人びて
追い付いてきたSHINeeのメンバーに口々に挨拶されるのを少し早口で返して聞いてみる
「誰かチャンミン見なかった?」
ああ、と口々に上がる声
「チャンミン兄(ヒョン)ならさっき挨拶しましたけど」
僕も、と賛同の返事
「え!どこで?まだいるかわかる?」
勢いこんできくとみんな用を得ずに口ごもる
「ああでも学校行くって言ってましたから帰ったんじゃないですか」
ほんの少しが待てずに既に点いているエレベーターのスイッチをまた押そうとした手が宙に浮く
…そうだった
チャンミンは元々入学した大学をやめて新しい大学に編入していて
忙しくて休学中になってしまうことが多いけど大学の広報大使になってCMに出たりもしている
元々の大学もトップクラスの入学だったり…とにかく頭がいいし勉強が好き…というかもう勉強する事が当たり前になっているみたいだ
練習生の頃もレッスンを終えた後塾に行って学校も休まず成績はトップクラス…成績が落ちたら辞めるというのが条件だったらしい
最も本人は歌手になりたかった訳じゃなかった、とある日の告白
スカウトされて何となく…そのうち嵐のような怒涛の日々
気付いた時にはもう手遅れだった、と
僕は幸運だ、と言った
夢も抱かずにアイドルになった
そして不幸だと言った
アイドルになるのは僕の夢では無かった…
なんで…と僕は聞いた
〈本当に歌手になりたくなかったならなんで手を抜いて成績を落とさなかったんだ?〉
僕の言葉に静かに目をあげた
〈そうすればお父上から禁止されて来なくても良くなったはずだろ?〉
〈…僕はやれるって証明したかった〉
〈証明?誰に?なんのために?〉
そういうと下を向いて
〈反対されたから…だから意地になって〉
〈…それだけ?〉
自嘲した皮肉な笑い
〈馬鹿だな〉
と言うと不敵に広がる笑み
〈お前は頭はいいけど馬鹿だよ!〉
〈誰が意地はったくらいであの練習を耐えられる?おまけに言葉も喋れない国に行って振り出しに戻って…誰があんな苦労をすると思ってるんだ?本気で歌手になりたくない奴がすると思うのか?〉
〈………それは〉
〈確かに最初から夢じゃなかったのかも…それは知らないけどでも…後から夢が追い付いたっていいだろ?〉
〈ヒョン〉
〈もしくは夢じゃなくたって構わないのかも…皆がみんな夢をもってなりたい職業についていると思う?〉
〈……他人の事なんか知りません〉
僕は笑った
チャンミン一流の言い方
皮肉な毒舌に隠れた真意
〈ライブとか収録とかなんでもいいけど…あの歓声が嘘だと思う?〉
ややあって小さく首を振った
〈お前が他の誰かに夢を見せてるんだよ。お前に憧れてアイドルを目指す人だっているかも…歌手になりたくない奴の歌に感動してね!〉
〈ヒョン〉
〈今は違うんだろ?〉
〈……〉
〈お前には違った夢があるかもだけど…でも今はこれも夢の1つなんだろ?〉
黙ってしまったチャンミンの姿を見て微かに覚える後悔
〈ごめん…またやっちゃった。今のはなんだか夢の押し売りだったな〉
いえ、とほんの少し硬い口調
兵役の話や近い将来を語る時…真面目な話の時には僕はなんだかいつも独善的になってしまう
というか大体の場合がそうなのかも…僕はいつも声高に自分の意見を通してしまいがち
周りの皆が曖昧に頷いたり目配せするのに気がついてやっと…やっとああ、と思うんだけど
でも僕はチャンミンに言ってもらいたい
チャンミンの夢が僕と同じだって言って安心させて欲しい
この先何があっても…と思う気持ちに突き刺さる刃
…どうして僕はいつも自分の夢にチャンミンを引きずりこんでしまいたがるのか
チャンミンにはチャンミンの夢があって然るべきだというのに
休学している大学に通って…大学院に行って博士課程をとるのもいい
何をやってどんな夢を抱いたって…
…ああ、と思いしる心
僕は怯えているんだ
自分の人生の道が限りなく狭くなって選択肢のない現実を目の前にして
どうなるか分からない未来に確約を欲しがっている
チャンミンの夢が僕と同じなら僕は
僕はその夢に帰って来ることが出来るから……
「ユノ先輩?」
明るくかけられた声に一瞬で引き戻される現在
まだ屈託ない目をして朗らかに…本当は彼等だって色々大変なんだろうけどでも見ていて微笑ましい姿
あまりの成長ぶりに最近は驚かされる事も多い
いつも新鮮な驚きがあるのも彼等の魅力の1つなんだろう…
「毎度ながら遅いエレベーターだな」
ちょっと長めの僕の視線に少し怪訝そうになり始めた気配をおどけた口調で一蹴した