TIAMO12(東方神起ホミン小説)
音も無くするりと部屋に入って来たチャンミンが、黙って立ち尽くしている僕に少し怪訝な顔をしながら横をすり抜けていき
テーブルの前で立ち止まる
そして彫像のように固まってしまう
固い背中の線が振り返ると押し殺したように低くなじられた
「…どういうことです?」
突然の怒りの理由がわからずに立ち尽くす僕の顔面にカジノの案内を突きつけた
「チャンミン」
「…こんなとこでまで?」
え?と思うなり咄嗟に何も言えないのを勘違いされてしまう
「違うよこれは…」
「何が違うんです…ここに行きたいんでしょう?」
そう吐き捨てるように言い捨てて目の前にかざされた用紙に視界をさえぎられ
あまりといえばあんまりな行為に思わずきつくなる口調
「よせよ…どかしてくれ」
手で振り払うとまたもやなじる恨めしそうな物言いに僕も冷静ではいられない
急に下がったような部屋の空気と反対に熱くなるのは怒りよりも羞恥だった
「ばれないとでも思ってるんですか…どうするつもりだったんです?明日になったら急にお前とは行けないとでも言うつもりだったんですか?」
「だからそんなんじゃないって」
なだめようとする僕の腕は乱暴に撥ね付けられて
そしてその瞬間チャンミンの顔に浮かんだ恐怖にかられた疑惑の表情
「…今夜の事は僕を懐柔するため?」
「チャンミナ…!」
必死のあまり悲鳴のような
「違うよ!…絶対に違う」
チャンミンの恐怖…絶望が僕にも伝染する
喋ろうとして何度も固唾を飲むけど喉に引っかかる言葉
「でも行くんでしょう?」
「誰もそんなこと言ってないだろ…話を聞けよ」
「話?話なんてこの何ヵ月いくらでも機会があったじゃないですか!だけどヒョンはそうしなかった…僕が何か言おうとしたって取り合ってくれなかった…僕がヒョンと話そうとした時には!違いますか?」
驚いて見つめる僕を睨み付ける
「どんな気持ちで僕が…それでもやっと終わったって…ここ暫くやっと元のヒョンに戻ったみたいって馬鹿みたいに喜んでたのに」
チャンミンの言葉につい上がる僕の語尾
「だから話を聞けって!」
「どうせカジノに行くんでしょう?大切な仲間との約束も断るくらいだもの」
思わず息が止まった
素手で心臓をわしづかみにされたみたいなショックに言葉が見つからない
黙ってしまった僕に泣き出しそうなチャンミンの声
「ヒョンと連絡が取れないって聞いた時僕は本当に悲しかった…家に帰って僕には話せなくても友達と会ってそしたら…」
「そしたら何か変わるかもって…それなのにヒョンが仕事で来れないって言ってきたなんて聞いて…僕は本当に…あの時だってヒョンは」
カジノにいたんでしょう?と聞かれて言葉無く頷いた
なんて言えばいい?
でも1勝負しかしなかったしすぐに帰ったから大丈夫だとでも?
誰も悲しませるつもりなんて無かった…ましてやチャンミンを悲しませるつもりなんて絶対に
絶対に…?そう思って暗く落ちていくような想い
「ヒョンが自分の稼いだお金で何をしようと僕には関係ないとヒョンは思ってるんだろうけどでも」
「ヒョンは間違ってる」
関係ない、なんて言葉が深く突き刺さる
でもそう言わせてしまったのも全て…
うなだれながらも今更の自己弁護が頭をもたげて
「わかってる」
「ならなんで…」
と言いかけたチャンミンを手で制止して絞り出すような声
「だとしても…僕が間違ってるんだとしたって…僕は間違えたら駄目なのか?」
僕の言葉に小刻みに震えるチャンミンの姿
「…たった一回の過ちさえ僕には許されないなのか?それがたった一回の息抜きだったとしても?」
「ヒョン…」
「毎日毎日馬鹿みたいに努力して馬鹿みたいに働いて僕にはたった一回…たった一回のしくじりも許されないのか?」
目を向けると見開かれたチャンミンの瞳に燃えるような目をした僕が写っている
「僕はいつでもお前の理想の優しいヒョンでいなきゃ駄目なのか?ファンにも友達にも世界中の誰の期待を裏切っても駄目なのか…?」
ヒョン、と悲しげなチャンミンの声はもう遠くなる…
「どこでどんなことをしたどんな風だった…煙草を吸うな喧嘩をするな太るなやせるなだって?挙げ句の果てにアイドルだからだのアイドルなんてだの…どうなるんだギャンブルなんかしたら僕は極悪人になるのか?」
「僕が間違ってるだって…だから何だって言うんだ!」
自分への怒りを目の前のチャンミンにぶつけてしまうのに気付いているのにとめることができない
恐ろしい程の自己嫌悪…張りつめた空気と水をうったような沈黙の中でチャンミンをただ見つめることしかできなかった
俯いた顔をあげられるのが恐い…その顔に侮蔑や嫌悪が浮かんだのを見てしまうのが
ようやく顔を上げたチャンミンは奇妙に不思議そうな穏やかと言ってもいいくらいの眼差しをして僕を見た
その瞬間の僕の安堵を伝えられたら…!
でもできない…僕には何もできなかった
そんな僕の様子を黙って伺っていたチャンミンが静かに口を開いた
「ヒョンどうして」
暗い目を向けると首を振りながら
「どうしてそんな風になるまで何も言ってくれないんですか…?」
ゆっくりとチャンミンが近付いてくるのが気配でわかる
目を見れずに下に落ちた視界に白いデッキシューズ
「怒りも悲しみもどうしてそんな限界まで貯めてしまうんです?」
目を閉じて肩で息をした…
ところへ冷静なチャンミンの静かな声
「ヒョン僕は…耳に痛い話もしますよ。それでヒョンに嫌われても恨まれても構わない…僕はヒョンの悪夢になってもいい…ヒョンにとってのモンスターになったっていいんです。僕以外に誰も…誰もなれないでしょうから」
唇を噛んで背けようとした顔を見つめてくる瞳
「いつでも完璧なヒョンなんて求めてませんよ…少なくとも僕はね。ヒョンが馬鹿でも嫌な奴でも極悪人でも構わない…大体ヒョンは完璧からは程遠いですよ言わせてもらえば」
そう言って少し口の端に浮かんだ誘うような笑み
でも僕は返せない…こわばって固まった全身がチャンミンの言葉に震えだす
「ヒョン僕を簡単な存在にしないで下さい」
「怒りも悲しみも共有出来ないみたいに軽い存在にしないで…さっきみたいにヒョンが声を荒げたらもう何も言えずにヒョンの言葉にイエスだけ言うような存在にしないでほしい」
違う、と叫びたい声は言葉にならない
「僕を簡単な存在にしないで…ヒョンの都合のいいように優しい言葉だけ囁いてあげるようなそんな簡単な存在にしないで下さい」
どんな怒号や憤怒にかられた罵詈雑言よりも心に突き刺さる言葉
「僕は…」
言葉は声になる前に消えてしまう
抱き締めようとしても鉛のような腕はあがらない
魂の無い人間みたいにただそこに立ち尽くしてどうにもできずに
床に捨てられていた広告をテーブルに拾いあげたチャンミンを見つめる
「…ヒョンの好きなようにしてください」
そう言って部屋を出ていった