セレブリティ12(ホミン小説)完結
公園を出るとまばらな人影が急に走り出した僕を怪訝に見送る
…ばれちゃうかな?
でもまあそんなのは全然問題ないや
僕が誰でどうしたって
何をした何をしない何が好き何が嫌い
ただの噂や隠されている真実がどうでも
何を言われてもなんて思われても
僕は大丈夫だって思える瞬間が来るなんて信じられなかった日を笑い飛ばそう
あの日失った色彩が鮮やかに蘇る
やがて来る冬に向けて最後の力を振り絞って色付いた木々の赤や黄色が眩しさと共に降り注いで
世界が真っ白なキャンパスになって僕を迎え色とりどりな景色を描いていく
疲れて寝不足のはずの体が不思議に軽く身体中から湧き上がる気持ちに身を委ねて
走って汗だくの僕を迎えてチャンミンは渋い顔を作ってみせるだろう
文句を言いながらそれでも細々と忙しく世話をやいて
やれバスタオルはどこだ、歯ブラシがどうしたなんて
僕は子供みたいに返事をしながら最後に盛大にお礼を言って笑いかけよう
僕の笑顔につられてチャンミンが微笑んでくれるのを期待して…
そうやってシャワーを浴びて身支度を終えソファーに座ったら
ほとんど寝ていないつけが回ってきて急な眠気に襲われてしまうかも
そうしてうたた寝してしまった僕にチャンミンは呆れながらも出かけるきっちり15分前までそっと寝せておいてくれるだろう…
あの日泣いていた背中をさすりながらそんな風に涙を流せるのを僕は少しだけ羨ましく思っていた
人前で泣くのなんて好きじゃない
でも僕が涙を流せる時がきたらそれは本当に僕自身が様々な想いや呪縛から解放されて
そうしてやっと新しく前に進める時なんだろう…そしてその時にはそれがどんなシチュエーションであっても
僕の側にはチャンミンがいてくれるに違いないという確信
思ったより早くその時は来て僕は自分でもちょっと驚いたしまだ早いなんて思って
しかもそれが外国でライブなんて大勢の前だったので今だに思い出すとちょっと恥ずかしいんだけどそれでも
涙を堪える僕を驚いて…それからひどく優しい顔でチャンミンは見守ってくれていた
僕達は運命の相手じゃなかったかもしれない
神様が決めた相手はお互いに違っていたのかも…それでも
僕達はお互いに自分の意志で相手を選んだ
運命も神様も関係なくただ自分の意志でお互いを選びあったんだから
その事を僕はもっと誇るべきなんだ…
そして明日からと言わず今日からまた忙しく始まる毎日
年明けにはまた新しいアルバム…しかも10周年という記念のアルバムが韓国で出るしほとんど並行して日本のアルバムの準備もして
しなきゃならないことばかりで他に何も考えられない毎日はいつか報われるだろう
でも例え報われなくても…努力や汗や涙がただの徒労に終わったとしても
その努力や汗が消えてしまう訳じゃない
無駄になってしまう訳じゃないんだって
やっとそう思えることが出来るようになったのもすべて
全てが…
息を切らしながら見上げるマンションのまだまばらな灯りを眺めながら考える
この中のどこにいるのかな、なんて
そう思うだけで何だか嬉しくなってしまう面映ゆいような気持ち
この中のどれかに確かにチャンミンがいて
迷惑そうな顔をしてみせるけど内心僕の帰りを
まだかな、なんて待っているに違いない
第一声はなんて言おう?
ごめんね?それともおはようとか?
インターフォンを押してかえってきたくぐもったチャンミンの声
「…ヒョン?」
思わず口元に浮かぶ笑み
丸いカメラの向こうにいるチャンミンに笑いかけなからこう告げよう
「ただいま」
ありふれた言葉だけど大切な言葉だ
〈ただいま〉
そう告げるんだ……