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東方神起  ホミン小説

現実が軽く妄想を超えるホミンの素晴らしさをお届けします

胸キュンしたい人は是非お試し下さい

TENSE1(東方神起ホミン小説)

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最初にヒョンが怪我をしたと聞いた時の僕の反応は何故だか笑ってしまうという不謹慎なものだった



その時まで僕達は絶好調で新年早々発売したアルバムの売上も良くシングルカットされた曲も音楽番組で一位を総ナメにして



10年を経て新たな新境地を得た、と周りからもプロのライターさんからも評判を取っているのを身近に感じて



嬉しかった…内心自分達でも手応えを感じていたので喜びもひとしお



続く第二段も好調な滑り出し



そんな風にちょっと浮かれたムードの中にいるのに不意にいつもの心配症に襲われて



こんなに上手くいってると何か一波乱ありそうだな、なんて思っていた矢先に飛び込んで来たのがヒョンが怪我をしたなんて電話だった



だからちょっと笑ってしまったのはやっぱりな、と自嘲したのでヒョンが怪我をした事を笑った訳では決してないんだけど



まあでもそんなに深刻な怪我じゃないと何故だか僕は頭から決め込んでいて



夜中のマネージャーからの電話にもそうですか、なんて冷静な返事



「すぐ良くなるんでしょう?」



呑気な僕の問いに答えは無く…この時初めて僕は自分がとんでもない勘違いをしていることに気付かされた



「後半の活動はちょっと難しいかと」



「え…そんな」



なんで早くそう言わないのか、なんて身勝手な言葉を飲み込んだ



てっきり2、3日休んで…くらい



大事を取って週末のテレビ出演まで休むとかそんな話だと思っていたのに



「ヒョンは今どこに?」



「病院で検査中で私もそちらにいます。とりあえず明日の仕事ですが…」



「僕も行くよ」



マネージャーの言葉を遮って意気込む…けれどかえってきたのは冷たい遠回しの却下だった



「明日にならないと専門の医者がいないそうなんでとりあえず今日はもう帰らされてしまいますから」



「じゃあ家に…」



と言うと言いにくそうに



「明日朝一番で病院なのでとりあえず私に付いていろというお達しなので…」



そう…と思わず鼻白む



「ヒョンもそれでいいって?」



否、という言葉を期待したけれども心の奥底ではもう答えは分かっていた



「…はい」



冷たくなる──電話を握りしめた指も声も



「まだ誰にも言うなと…明日の仕事があるからそれは無理でしたがとにかくまだ大事にしないでくれと…この電話も実は私の独断で」



電話を強く握りしめながらソファーに座り込んだ



慌てて取りなすようなマネージャーの言葉が虚しく響く



「もう夜だし明日自分で電話するって言ってましたよ」



僕は力無く返事ともとれないような呟きを漏らして



「それで明日のスケジュールですが…」



後の言葉はほとんど耳に入らなかった








一位になった今回の曲は作曲の段階からヒョンが気に入って僕達にこの曲を下さいと直談判してまで手にいれた楽曲だった



振り付けも構成にも最近は僕達の意見が取り入れられたりして



そんな愛着のある曲で一位を取って本当にこれからと言う時に…



──どれほど悔しがっているだろう




今すぐ飛んで行って何もできなくても何も言えなくてもただそばにいて



そんな事さえさせてくれない現実と一番辛い時に電話すらしてこない…夜中だからとか明日でいいなんて冗談じゃない



まずマネージャーに電話するのはもう僕達の習性みたいなもので仕方ないとしてもその後いくらでも…なんて自分勝手な考え



それともそんなに酷い怪我なんだろうか



酷いに決まってる…無くなった明日からのスケジュールを思った



あのヒョンが活動を中断するのを承知したくらいだもの



40度近い熱があってもテレビに出ていた



過去にはスタッフのミスで大道具に腰を強打されて持病になってしまったり



メンバーの一人が気づかず締めた車のドアに腕を挟まれて…ギブスをしなくてはいけないほどの怪我でもそれを拒否した



当のメンバーやファンが気にするから…どんなに聞かれても誰なのか明かさなかった



扁桃腺炎の手術のすぐ後まだ体力が戻っていないうちに無理して両足首の靱帯を損傷したことも…



嫌な記憶が蘇る



ヒョンの弱り切った姿を見たのはその時が初めてだった…



思わず電話してしまおうとして躊躇する



構うもんか、と意を決して電話をかけると長い着信音が冷たく響いて



冷静な機械の声が不在を告げた







うろうろと歩き回りたいのをこらえて無理矢理に体を落ち着かせてふと握ったままの携帯をテーブルに投げ出した



皮肉なもんだな、と考える



人と人を繋ぐためのツールや機能…電話だったりメールだったりSNSだったりが逆に人を遠ざけてしまう



鳴らない電話や待っても来ないメッセージを眺めて繋がっていたはずの心を逆にどこか遠くに感じさせてしまう



簡単に取れる筈の連絡を何故しないんだろうと疑心暗鬼にかられたり…そんなのは馬鹿げているって普段なら思うのに



でも今は…



何の役にもたたない只の機械になった電話を腹立たしく眺めながら眠れない長い夜を覚悟した









夜半過ぎ耳元の囁きに急な目覚め



「チャンミナ?」



電話を握ったまま寝てしまっていた…枕元に鎮座した携帯を慌てて取り上げて



「ヒョン?」



というと繋がって良かった、なんて返事



訳が分からずに携帯をみると一時間ほどの通話になっていて



どうやらダイヤルしたまま眠ってしまったみたい…思わず声をあげると受話器の向こうで微かな笑い声



「夜中に電話なんて珍しいと思って…おまけに繋がっているはずなのに出ないから寝ちゃったんだなと解ってたんだけど」



起こしちゃったかな?なんて呑気な声



「そんな事より大丈夫なんですか?」



勢いこんで聞くと溜め息混じりの沈黙



「やっぱり…黙ってろって言っといたのに」



「ヒョン!」



思わず上げた声が自分でも驚くほどの鋭さで静かな部屋の空気を切り裂いた…



ところへなだめるようなヒョンの声



「大丈夫だよ…明日会って顔を見て話そうと思って」



「ヒョン…」



我ながら情けない声にかぶせてごめんな、と響く声



「本当にごめん…これからって時に」



そんなの全然、と言う言葉は我ながら虚しく響いた



悔しさは僕にだってある



何よりヒョンの怪我が心配だし仕事なんて二の次だけどそれでも



僕の声にわずかに滲むそんな気持ちをヒョンは気づいているに違いない



でも本当の事を解っているんだろうか?



僕が悔しいのは自分の故じゃない



ヒョンが悔しがることこそが僕は悔しいんだってことを…



「チャンミナ?」



ヒョンの声はいつもと同じ…心配した弱さや苦みも感じられない囁くような優しい声



「本当に大丈夫なんですか?」



「大丈夫大丈夫…まあ明日詳しい検査だから」



「──何時からですか?」



帰ってきた沈黙の意味を無視して問いただす


「ヒョン」



「お前はとりあえず事務所に行ってくれと言われてたろ?」



座っていたベッドから立ち上がりイライラと髪の毛をかきあげる



急なスケジュール調整に明日は大騒ぎだろう


いくら何でも急に単独の仕事が入るわけないし…



雑誌やテレビの収録は全てキャンセルになったとさっき聞いたばかり



近々行われるファンとの列車旅行の打ち合わせとツアーに向けてのレッスンが入っていたはずだけどそんなのどうでもいい、という言葉を無理矢理飲み込んだ



「…終わったら行きます」



もう一度 行きますから、と強い口調で宣言すると電話の向こうでヒョンがかすかに笑い声をあげた








翌日事務所に行くと案の定バタバタと忙しく飛び回ったり電話の対応に追われているスタッフさんを尻目に僕自身は大してやることがない



公式な発表はまだだけどヒョンのニュースはもう知れ渡っていて会う人会う人にヒョンの具合を聞かれたり



事務的な用事を終え急いで病院へ向かう途中ふと眺めるレッスンルームでは後輩のグループが真剣な眼差しで汗を流している



その姿に懐かしさを感じ足を止める



一心不乱になれる時期なんて実はそう長くない



好きな事をしているはずでもいつしかそれが当たり前になって最後には義務になり…



現実と折り合いをつけながら夢を夢のまま保つには努力が必要だ



誘惑も多い…美味しい話や魅力的な誘いの何が真実で何が嘘なのかわからなくなってしまうことも



歩き出しながら考える



僕は運が良かった



もちろん努力もした…何が本当に自分に必要なのか見分ける目も養ってこれた



でも何より僕にはヒョンがいた



常に夢に向かって努力する人



夢を夢物語で終わらせずに現実に叶えてしまう強い力と意思をもった人が常に隣にいてくれた



常人では考えられないようなスケジュールとレッスンを終えてなお夜中に一人でレッスンして脚を怪我してしまうような人が…










病院に着くと急な不安にかられてしまう



教えて貰った病室のドアを静かに開けるとヒョンが笑顔で出迎えてくれたのでほっと胸をなで下ろした



挨拶をしながら観察する



無理してるんじゃないか…本当は無理して作った笑顔じゃないのかと



ヒョンの笑顔も声にも不穏な陰りはなく明るく屈託がなかったけれどだからこそ僕は邪推してしまう



本当になんとも無いならもっと淡々としているんじゃないかと思って…



「本当にごめん」



挨拶のあと唐突に頭を下げられてその真剣さに胸が痛んだ



「謝らないで下さい…それより大丈夫なんですか?」



「大丈夫だって」



ベッドに起き上がった腰から下に掛けられたブランケットが巧妙に足全体を隠している



足首のギブスの盛り上がりについ目がいってしまうのをこらえて手近な椅子に腰掛けた



「なんか癖になっちゃってるみたい…」



僕の視線に目ざとく気付いたヒョンが口を開く



「──足首ですか?」



ヒョンは頷いて



「…馬鹿やっちゃったな」



「靱帯ですよね…ヒョン本当に大丈夫なんですか?」



僕の返事は少し早すぎるし少し深刻過ぎるトーンでヒョンにまた大丈夫だよなんて言わせてしまって



「なんだって信じてくれないのかな」



なんて明るく振る舞うヒョンの姿に一抹の不安を抱えながらも気持ちが穏やかに晴れていくのを実感した…







ややあってマネージャーが看護婦さんと現れて挨拶もそこそこにヒョンに詰め寄った



「入院しないってどういう事なんですか」



マネージャーの言葉に驚いてヒョンを見ると涼しい顔をして大袈裟だよなんて



「先生も大丈夫だって言ってたし」



「だからって…だいたいどうするんですか一人で色々大変でしょうに」



何とかなるって、なんてヒョンの返事はいい加減だけど有無を言わせない感じで



食事…はまあ何とかなるとしても着替えはどうする、風呂はどうする、だいたいじっとしてられるのか、なんてマネージャーの必死の説得もどこ吹く風



僕は内心ため息をついた



何かあったら…と思うと心配だしこのまま入院して欲しいと思う



でも…



ちょっとした風邪でもすぐに医者に行く僕と違ってヒョンはあまり病院が好きじゃない



よく知らない人には逆に見えるかもしれないけどヒョンは僕より大分病気も怪我も多くて


重症化してしまうことも多い…いつも限界まで頑張ってしまうからなんだろうけど



歌手としては致命傷な喉の手術を乗り越え



舞台でスタッフのミスでおこった事故からの腰痛は今でも時々サポーターをしたり



足首は前にも…と思い出して恐怖にかられる



怪我した一方の足をかばって結局両足首を傷めてしまった時のことを思うと本当に無理しないでこのまま縛り付けてでも安静にしていて欲しいと思う



でもその一方で何年か前過労と心労で倒れた時



見舞いに行って帰ろうとする僕にポツリと呟いた



僕も帰りたいな…



思わず振り返ると



病院は嫌いだよ



そう言って悲しく微笑んだ…



ヒョンにとって病院は軽い怪我や風邪であわよくば休んでしまおうかなんて場所じゃなく


まさに生死の境目や進退を左右するような辛い出来事を象徴する場所なんだろう…



マネージャーの説得はまだ続いている



ヒョンは黙って聞いているけどもう心は決まっているようだ



マネージャーも可哀想にな、と思った



一度こうと決めたら周りのどんな意見も忠告もヒョンの決意を揺るがすことは難しい



最も昔はもっと専制君主だったように思う…



けれどもそれはヒョンが我が儘だからとかでは全くなくむしろ反対で



そうでもなければメンバーが多くて雑多な意見がまとまらなかったから…その代わりにヒョンは自分の意見が間違っていると思えばすぐに謝って撤回したしスタッフさんや会社の人との交渉や何もかも全部一人でこなしていた



僕達はいつもそれが当然だと思っていた



僕は皆の前で自分の意見や考え…ああしてほしいとかこうしたい、とかを言った事は無かった



ヒョンに意見を求められても黙って下を向いて首を振っていた



どうせ僕の意見なんて通らないだろうと思っていたし何より



その方が楽だったから…




2人になって初めておずおずと僕が自分の意見を述べると瞬間ちょっと意外な顔をして



すぐに大きく破顔した



その刹那僕は悟った



ヒョンは待っていてくれたんだな、と



僕がそうやって自分から意見やアイデアや心で思うだけの欲求を言葉に出来る日を待っていてくれたんだ…







「ちょっといいですか」



堂々巡りの説得でその場に立ち込めた重い空気に思わず口を挟むと2人とも怪訝そうに振り返った

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