東方神起ホミン小説 東方lovers

東方神起  ホミン小説

現実が軽く妄想を超えるホミンの素晴らしさをお届けします

胸キュンしたい人は是非お試し下さい

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重たい身体と…それ以上に重たい心を引きずって仕事に出かける



ヒョンのいないこんな時…仕事も憂鬱だけどそれ以上に考える時間があってしまうのが恐ろしい


…ヒョンに会いに行く時間ができてしまうのも



あの日逃げるようにして帰ってからヒョンには会っていなかった



怪訝な顔をされながらもマネージャーに何でもいいから仕事を入れてと頼み込んで



ヒョンは次の日にメールをくれていた



〈今日はこないの?〉



仕事で行けないんです   



短いメッセージを何度も書き直しては送れずに



やっと送った時には疲れ果ててしまった…何よりも自分自身に



仕事で行けないなんて言い訳に頑張ってねと


ヒョンは知っているのに…いくら仕事だからってヒョンのところに行けないほどの仕事なんてあるわけない



レコーディング中でもツアー直前でも無くましてやヒョンの不在で色々な仕事をキャンセルしている今



それなのに…



無くなったスケジュールをここぞとばかり埋めようとするのに苦笑い



単独で出来る仕事は限られている



評判の良かったバラエティー番組は歌手活動の再開で降板したばかりだった



僕にとって転機になった番組



テレビ番組だというのに泣いてしまったりするほど真剣に取り組んで



今まで余り見せなかった率直な姿に皆驚いたみたいだけど僕自身が一番驚いていた



苦手だと思っていた団体のスポーツもやってみると楽しくて…収録に行くのが楽しみになって来たところで降板を告げられた



スケジュール的にどうしても無理だと分かっていてもやっぱり少し釈然としない



……そう思ってのぞんだ最終日の収録に特別ゲストが来るという



誰ですかと聞いても誰も教えてくれずに



かなり忙しい最中だからまさかな、と思ったけどそこに本当にヒョンが現れて



おまけにチャンミンを取り戻しにきましたなんて言うので僕はもう顔も上げられない




2人で活動するようになってしばらく



僕が初めてドラマの主演をした時もそうだった



ヒョンだって忙しいのにわざわざ車を運転してフェリーに乗って撮影現場に現れて…それも何度も



恥ずかしいからやめてと言うと怪訝そうに



〈何で?〉と



〈小学生じゃないんですから保護者同伴なんておかしいですよ〉



〈…僕は保護者じゃないよ〉



だからそうじゃなくて…と説明しようとする言葉はしりつぼみになる



嫌じゃなかった…本当は嬉しかったから




2人での活動が少し落ち着いてくるともう現場にまでヒョンが乗り込んで来ることは無くなって



それを寂しいと思うたびに僕は怖くなる






〈チャンミン可愛い可愛い〉



テレビだろうが何だろうがお構いなしのヒョンの言葉



〈…気持ち悪いですよ〉



そう言って冗談にしてしまうか黙ってしまう僕に屈託の無い顔




……頭を振って記憶を締め出した










どう頑張ってもキャンセルした仕事全部の時間は埋まらない



当たり前か、と帰り支度をしていると鳴り響く着信音に胸を踊らせるけど




「…もしもし?」



画面を見て表れた名前を見て落胆するなんて友達がいのない…



「…ああ」



「何だテンション低いな」



お前が高いんだよ、と言い返すと心配そうに


「ユノ先輩そんなに悪いの?」



「違うって…何それそんな話出てるのか?」



いや…なんて言葉を濁すのについ強い口調



「おい…キュヒョナ!」



僕の見幕にただの噂だって、なんて無責任な言葉に思わずの舌打ち



「靱帯断裂じゃないかとかさ…前にも怪我したところなんだろ?」



僕はもう気が気でない



「何だってそんな…」



「だから噂だって。違うならいいじゃん…でも旅行は中止したほうがいいかな」



一瞬話が見えずにあいた間にキュヒョンが大声で抗議してくる



「チャンミン…お前忘れてたろ」



ヒョンが怪我をする前からどうしてもと無理を言って取ったオフだった



最近流行っているグルメ旅行に行こうとずいぶん前から計画していて本当に楽しみにしていたのに



ごめん、と謝って



「大丈夫行けるよ」



「本当に?でもいいのか?」



「ヒョンの事なら…」



ご両親も来ているし大丈夫、と返そうとした言葉はキュヒョンの話にかき消された



「だってユノ先輩入院するんだろ?」



え?と思って耳を疑った



「入院て…」



「事務所でさっき誰かが…まあでもお前が知らないならガセかな」




仕事を終えて帰ろうと支度しているときにキュヒョンから電話があったからその前の着信もメッセージもチェックしてない



もしヒョンが本当に入院するなら何か連絡があるはず…



怖くなって携帯を眺め着信を見ようとちょっとごめん、と言って通話を切った



ヒョンからの連絡がありませんように



祈りも虚しくヒョンからの着信履歴



留守電を聞こうとしていると部屋に入ってきたマネージャーに詰め寄ってしまう



「ヒョンが入院するって?」



「今お知らせしようと…連絡ありましたか?」



何で早く言わないんだよ、と怒鳴ってしまいそうなのをこらえて荷物をひっつかむ



急ぎ足で車に向かうと遠慮がちに



「入院は明後日からですよ」



「…ヒョンは今自宅?」



そうですねとの返事も待たずにヒョンのアドレスを告げた













いざヒョンのマンションに着いてしまうとやっぱり電話してから…なんて弱気になる



留守電のヒョンのメッセージは入院するけど心配しないでなんて簡単なもので僕は狼狽を隠せずに



僕の様子を見て入院はするけどそんなに心配しなくていいなんて車中のマネージャーの言葉も慰めにはならない




マンションの前で恐る恐る電話をかけると何回目かのコールでヒョンの声が聞こえてきた



「チャンミン?」



ヒョンの声を聞いた瞬間言いようのない感情に突き動かされて言葉が出ずに



それを悟られたらしく優しくヒョンが語りかけてくれる




〈留守電聞いたんだ…?〉



はい、と答える声は小さくかすれてしまう



「びっくりさせてごめん…でも大した事ないから」



「ヒョン」



と言うと思いついたように今どこ?と




「…マンションの前です」



「うちの前ってこと?」



「はい…」




「なんだじゃあ早くあがってこいよ」



何事も無かったみたいなヒョンの言葉



僕が言ってしまった言葉もその後ヒョンを少し避けていた事も何も無かったみたいな






部屋に着くと松葉杖をつきながらヒョンが出迎えてくれたのを見て不思議に思ったのが顔に出たんだろう…



「今日一旦帰ったんだ…また入院する時来てもらうから」



「…そうですか」



答える僕の声は固い…



ヒョンに会ったら言いたかった言葉も聞きたかった事も



何の慰めにもならなくてもただ抱きしめてとかそんなことも出来ずに立ち尽くしていると



「チャンミン食事は?」



なんてヒョンに聞かれてしまって



それどころじゃないと内心思ったけどヒョンの見せてくれる穏やかな日常に僕のヒステリックなメロドラマは似合わない



まだです、と答えると良かったなんて言われて付いていく後ろ姿




「張り切って何だか色々作ってくれて…ありがたいけどやっぱり動かないからそんなに食べれなくて」



キッチンのコンロにチゲがあったりテーブルには作り置きの惣菜が山と積まれていて



危なっかしく松葉杖をついたままご飯をよそおうとしたりするのを慌てて止めた








結局そのまま普通に食事をして…僕が食べるのを見ながらヒョンは世間話



普段あんまりヒョンの口にのぼらない話題が沢山出てくるのを新鮮な気持ちで聞いていると苦笑したヒョンの顔




「ゲームにも飽きたし…暇だからテレビとモバイルばっかり見ちゃって」



「ああ…なるほど」



話が途切れるのが怖くて質問したりして



「…何か面白い話でもありますか?」



「それがさ」



とヒョンの言葉は間の悪い僕の携帯の着信音で遮られてしまう



慌てて取り出すとキュヒョンからでそういえばさっき…と思っていると



「でないの?」



いいんです、と言って電話を切るとしまおうとしたそばから鳴り響く着信音にヒョンが苦笑して



「出た方がいいよ…急用かもしれないし」



「すみません」



目の前のヒョンを意識しながら電話に出ると今大丈夫かなんて…一回切れた通話で察しろよと思いながらも



「うん…さっきの話なら後でメールするよ」



と言うと詳しい話はいいから旅行行くか行かないかだけ教えろよ…と



「多分…いやごめん無理だ」



まじかよ、と冗談ぽく言ってから急に真面目な口調で



「まあそうだろうな…ユノ先輩と連絡取れた?やっぱり入院するって?」



ヒョンの名前にチラ、と本人を見やると聞いてない素振りで少し横を向いている



それでも目の前だからと慎重に言葉を選んでヒョンの事を話していると判らないようにそうなんだ、と



「だから本当に悪い…この埋め合わせは絶対するから」



「いいよそんなの…事情が事情だし」



「そんなの関係ない。絶対埋め合わせするから」



しつこく食い下がるとわかった期待してるなんて明るく言ってくれたから僕も少しだけ胸のつかえが落ちる



僕から誘った旅行だった…



終わってすぐ活動再開するキュヒョンができれば別の日の方がいいと言ってきたのに僕が空いていなくて



だから本当に申し訳ないと思うけど…



後でメールすると言って電話を切るとユノヒョンが無言で僕を見つめていた


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「僕がヒョンの家に泊まりますよ」



そう告げると何だか一瞬の沈黙のあとヒョンは嬉しそうに笑っているし…


マネージャーは苦虫を噛み潰したような渋面をしてこちらを見た



振り返った2つの顔に向かって



「ヒョン…本当に入院しなくていいんですか?」



と無言で盛んに頷いているヒョンと僕を見比べてマネージャーはため息をついた



「全く…とにかくこれ以上何事もないように頼みますよ」



「大丈夫だって…チャンミンがいてくれるし」



ヒョンの言葉にちょっと狼狽して赤くなったのを打ち消すように



「どうせ何を言ったって聞かないんですから」 



しぶしぶと不服そうなマネージャーに



「何かあったら入院させますから」



そう言うと声を上げてヒョンが笑い出した…











その日のうちにヒョンが怪我をしてしばらく休養すると正式な発表があってマネージャーは僕達を送ると慌ただしく事務所に戻って行った



松葉杖を振って挨拶するヒョンをたしなめて


「大人しくしてて下さい」



ソファーに座って右足を投げ出したヒョンは何しようかな~なんて子供みたいに



でも僕には分かっている



本当は悔しいし落ち込んで口も聞きたくない気分を変えるためにヒョンが無理してでも明るく振る舞っているって



すぐにゲームを始めたヒョンの横で僕はモバイルのチェックをする



対戦すると熱くなりすぎるヒョンのせいで普段あんまり一緒にしないゲームも今日くらいはいいだろう



ヒョンには本当に早く治って欲しいし何より怪我なんてして欲しく無かったけどもう仕方ない…これからしばらく何をして過ごそう



なんて考えて1日が過ぎていった









次の日の朝早く電話の音で破られる久々の眠り



スケジュールが無くて目覚ましをかけない眠りは貴重なのに…と電話を取ろうとしてはたと気付く



鳴っているのはヒョンの携帯だった



もぞもぞと文句を呟きながらまた寝ようとするヒョンの耳元に携帯を当てると急に飛び起きて挨拶を始めた



どうやらご両親かららしいと思って部屋を出ようとするのを目線で止められ



ここに座れというように自分の横をポンポン、と叩く



躊躇いながらヒョンの隣…ベッドに起き上がったヒョンの隣に腰掛けると当然という顔で大きく頷いたのを見て照れくさくいつものポーカーフェイス



そんな僕を眺めてなんだかヒョンは嬉しそうに電話を続けている



「大丈夫だって…ああ…チャンミンに来て貰ってる…」



小耳に挟む言葉に跳ね上がる心臓



聞かないようにしても心はうらはら…たまに混じるヒョンの光州訛りについ頬が弛む




「無理しないでいいから…え?」



こっちを向いて意味ありげに目を回す



「…わかりました」



ややあって電話をきったヒョンが何だか呆けたみたいに呟いた



「…こっち来るって」



え?と思わず顔を見る



「ご両親がですか?」



ヒョンが頷くと思わず立ち上がってしまうのを苦笑いで



「…そんなに焦らなくていいよ」



「ヒョンはそうでも僕は違うんです…どっちにします?」  



唐突な質問に戸惑い顔のヒョンに



「あなたは安静にしている約束なんですよ…ベッドとソファーのどっちにしますか?」



あ~どっちかななんて甘えた口調を無視して


「早く決めて下さい」



「ベッドだと大げさだし…」



ソファーですね、と松葉杖を渡すと受け取らずにでもな~なんて上目使い



「ソファーだと今度はなんか怒られそうだしな…安静感が無いよね」



なんて向けてくる笑顔に微笑みそうになるのをこらえて



「安静感なんて言葉はありません…何でもいいから早くどっちか決めて下さい」



まだ考えあぐねているヒョンをおいて行こうとすると引き留めるように声を上げた



「やっぱりソファーにする」



なんて宣言したわりに動こうとしないヒョンにじれて近寄ると耳元に口を寄せた




「…寝室はお前以外立ち入り禁止」




朝っぱらから歯の浮くような古臭いセリフに思わず絶句すると下手くそなウインクなんて


「──頭までどうかしちゃったんじゃないですか」



言い捨てて顔を背けると弾かれたように笑い出したヒョンを置いて寝室を出た











抱えきれないほどの荷物を持ってヒョンのご両親が姿を見せたのはその日の午後になってからだった



一通り涙の対面…とまではいかないけど親子の心暖まるやりとりのあと



お久しぶりです、と挨拶すると



「うちの息子がご迷惑かけて…」



なんて言われて慌てて否定する



「とんでもない…僕の方こそいつもユノヒョンにはお世話になってます」



頭を下げるとまあまあ、なんて…



そんな僕達をヒョンはニコニコと微笑んで眺めている



「ご両親にお変わりはない?」



「はい。こんな時になんですが明日にでもご挨拶に…」



元々メンバーの親という同じ境遇にいる者同士面識はあったけれど余り接点は無かった親同士も僕達が2人になってからはライブで並んで観戦したり家族ぐるみで食事会をしたり


そんな交流をヒョンは楽しんでいるようだった



僕はと言えば…



ヒョンのご両親はとても良い人達だし大好きだけれど…だからこそ



いつもこうして挨拶したり一緒に食事したりする合間…ふとした瞬間に僕は何だか申し訳ない気持ちになってしまったり



何だか皆を欺いているような気分にかられたりしてしまう



自分達がとんでもない過ちをしでかしているように感じて気詰まり極まりなく



そのたびヒョンを盗み見る



そんな時決まってヒョンは優しく僕に微笑んでくれるけど僕は微笑みを返せずに後ろ暗く虚ろな表情を浮かべてやり過ごす



そうして強く願う



この恋が間違っていないという確信をどうか僕から奪わないでくれ、と…












固辞したけれど結局夕食をご馳走になって帰る道すがら思いかえす



遅いから泊まっていけよ、なんてヒョンの言葉に信じられないという顔をしてみせてさっさと車を呼んでしまった



ご両親にはきちんと夕食のお礼と暇乞いをして礼儀正しいマンネの印象を壊さないように振る舞って



…少しでも良く思われたい



嫌われたくないしせめて可愛いい弟だと思って貰えればなんて馬鹿げた努力を冷たく笑う



「…僕が送る」




帰る段になってヒョンが松葉杖をついて立ち上がろうとするのを皆で止めようとしたけどこれもリハビリだよなんて押し切られてしまって



…手術したわけじゃないから今のヒョンに必要なのはリハビリでなく安静なんだけど





マンションの部屋を出るなりヒョンの小さなささやき声



「ごめんな」



なんてヒョンが謝る事じゃない



そう言いたかったのに何故か声にならずに俯いた卑怯な態度




「チャンミナ」



「何で謝るんです」



逃げるようにエレベーターの前



松葉杖を投げ出して走って来そうなヒョンを見て足が止まる



「何やってるんですか!」



と僕の声にまたごめんなんて…




「謝らないで下さい。怪我したことも…何もかも全部」



でも…と困った顔に溜飲が下がる



「せっかくお前が来てくれてたのに追い返すみたいで…」



「…みたいですか?」



「チャンミン」



真面目な口調…心配そうな眼差しに瞬間言いようのない怒りがこみ上げた



「内心ほっとしてるんじゃないですか」



言い放った言葉に含まれる棘がヒョンを…他でもない僕の大切なヒョンを傷つけると僕は知っているのに



「チャンミン…」



「馬鹿みたいに何度も名前ばっかり呼ばないで下さい…!」



ヒョンの顔色が変わった



「…俺は泊まって行けって言ったろ?」



急変するヒョンの口調…危険な信号



「あんな状況で泊まってどうしようって言うんですか…まさか僕達一緒に寝てますとでも?」



目を丸くして驚いたヒョンの顔



怒るのも忘れた瞳に悲しみの色が宿るのを茫然と眺める



こんな事言うなんて自分が信じられない



最悪な酷い気分



口から飛び出してしまった言葉を取り消すためなら僕は何だって…なんだってするのに



すみませんと僕が言うより早くヒョンが僕の名前を呼んだ



「チャンミナ」



「すみません…」



今のは違うんですとしどろもどろの説明をヒョンは黙って聞いてくれている



どんな謝罪の言葉もどんなに言葉を尽くしても説明になんてならない



ただの言い訳…それでもヒョンは最後まで黙って聞いてくれていた



実際のところ僕は自分でも自分が何に苛ついているのがわからない



帰るのなんて当たり前だ…ご両親が来ているのに何で僕がヒョンの家に泊まる理由があると?



仲良くご飯を食べて…それなのに何だってこんなに



そうして気付いてしまうある感情



ヒョンがやましさや後ろめたさを感じさせないことに僕は苛ついてしまう



僕と同じようになんで感じないのか、と



どうして僕だけが



それは僕の罪悪感…



いくら言い聞かせても完全には消えない罪悪感からくる感情だった

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最初にヒョンが怪我をしたと聞いた時の僕の反応は何故だか笑ってしまうという不謹慎なものだった



その時まで僕達は絶好調で新年早々発売したアルバムの売上も良くシングルカットされた曲も音楽番組で一位を総ナメにして



10年を経て新たな新境地を得た、と周りからもプロのライターさんからも評判を取っているのを身近に感じて



嬉しかった…内心自分達でも手応えを感じていたので喜びもひとしお



続く第二段も好調な滑り出し



そんな風にちょっと浮かれたムードの中にいるのに不意にいつもの心配症に襲われて



こんなに上手くいってると何か一波乱ありそうだな、なんて思っていた矢先に飛び込んで来たのがヒョンが怪我をしたなんて電話だった



だからちょっと笑ってしまったのはやっぱりな、と自嘲したのでヒョンが怪我をした事を笑った訳では決してないんだけど



まあでもそんなに深刻な怪我じゃないと何故だか僕は頭から決め込んでいて



夜中のマネージャーからの電話にもそうですか、なんて冷静な返事



「すぐ良くなるんでしょう?」



呑気な僕の問いに答えは無く…この時初めて僕は自分がとんでもない勘違いをしていることに気付かされた



「後半の活動はちょっと難しいかと」



「え…そんな」



なんで早くそう言わないのか、なんて身勝手な言葉を飲み込んだ



てっきり2、3日休んで…くらい



大事を取って週末のテレビ出演まで休むとかそんな話だと思っていたのに



「ヒョンは今どこに?」



「病院で検査中で私もそちらにいます。とりあえず明日の仕事ですが…」



「僕も行くよ」



マネージャーの言葉を遮って意気込む…けれどかえってきたのは冷たい遠回しの却下だった



「明日にならないと専門の医者がいないそうなんでとりあえず今日はもう帰らされてしまいますから」



「じゃあ家に…」



と言うと言いにくそうに



「明日朝一番で病院なのでとりあえず私に付いていろというお達しなので…」



そう…と思わず鼻白む



「ヒョンもそれでいいって?」



否、という言葉を期待したけれども心の奥底ではもう答えは分かっていた



「…はい」



冷たくなる──電話を握りしめた指も声も



「まだ誰にも言うなと…明日の仕事があるからそれは無理でしたがとにかくまだ大事にしないでくれと…この電話も実は私の独断で」



電話を強く握りしめながらソファーに座り込んだ



慌てて取りなすようなマネージャーの言葉が虚しく響く



「もう夜だし明日自分で電話するって言ってましたよ」



僕は力無く返事ともとれないような呟きを漏らして



「それで明日のスケジュールですが…」



後の言葉はほとんど耳に入らなかった








一位になった今回の曲は作曲の段階からヒョンが気に入って僕達にこの曲を下さいと直談判してまで手にいれた楽曲だった



振り付けも構成にも最近は僕達の意見が取り入れられたりして



そんな愛着のある曲で一位を取って本当にこれからと言う時に…



──どれほど悔しがっているだろう




今すぐ飛んで行って何もできなくても何も言えなくてもただそばにいて



そんな事さえさせてくれない現実と一番辛い時に電話すらしてこない…夜中だからとか明日でいいなんて冗談じゃない



まずマネージャーに電話するのはもう僕達の習性みたいなもので仕方ないとしてもその後いくらでも…なんて自分勝手な考え



それともそんなに酷い怪我なんだろうか



酷いに決まってる…無くなった明日からのスケジュールを思った



あのヒョンが活動を中断するのを承知したくらいだもの



40度近い熱があってもテレビに出ていた



過去にはスタッフのミスで大道具に腰を強打されて持病になってしまったり



メンバーの一人が気づかず締めた車のドアに腕を挟まれて…ギブスをしなくてはいけないほどの怪我でもそれを拒否した



当のメンバーやファンが気にするから…どんなに聞かれても誰なのか明かさなかった



扁桃腺炎の手術のすぐ後まだ体力が戻っていないうちに無理して両足首の靱帯を損傷したことも…



嫌な記憶が蘇る



ヒョンの弱り切った姿を見たのはその時が初めてだった…



思わず電話してしまおうとして躊躇する



構うもんか、と意を決して電話をかけると長い着信音が冷たく響いて



冷静な機械の声が不在を告げた







うろうろと歩き回りたいのをこらえて無理矢理に体を落ち着かせてふと握ったままの携帯をテーブルに投げ出した



皮肉なもんだな、と考える



人と人を繋ぐためのツールや機能…電話だったりメールだったりSNSだったりが逆に人を遠ざけてしまう



鳴らない電話や待っても来ないメッセージを眺めて繋がっていたはずの心を逆にどこか遠くに感じさせてしまう



簡単に取れる筈の連絡を何故しないんだろうと疑心暗鬼にかられたり…そんなのは馬鹿げているって普段なら思うのに



でも今は…



何の役にもたたない只の機械になった電話を腹立たしく眺めながら眠れない長い夜を覚悟した









夜半過ぎ耳元の囁きに急な目覚め



「チャンミナ?」



電話を握ったまま寝てしまっていた…枕元に鎮座した携帯を慌てて取り上げて



「ヒョン?」



というと繋がって良かった、なんて返事



訳が分からずに携帯をみると一時間ほどの通話になっていて



どうやらダイヤルしたまま眠ってしまったみたい…思わず声をあげると受話器の向こうで微かな笑い声



「夜中に電話なんて珍しいと思って…おまけに繋がっているはずなのに出ないから寝ちゃったんだなと解ってたんだけど」



起こしちゃったかな?なんて呑気な声



「そんな事より大丈夫なんですか?」



勢いこんで聞くと溜め息混じりの沈黙



「やっぱり…黙ってろって言っといたのに」



「ヒョン!」



思わず上げた声が自分でも驚くほどの鋭さで静かな部屋の空気を切り裂いた…



ところへなだめるようなヒョンの声



「大丈夫だよ…明日会って顔を見て話そうと思って」



「ヒョン…」



我ながら情けない声にかぶせてごめんな、と響く声



「本当にごめん…これからって時に」



そんなの全然、と言う言葉は我ながら虚しく響いた



悔しさは僕にだってある



何よりヒョンの怪我が心配だし仕事なんて二の次だけどそれでも



僕の声にわずかに滲むそんな気持ちをヒョンは気づいているに違いない



でも本当の事を解っているんだろうか?



僕が悔しいのは自分の故じゃない



ヒョンが悔しがることこそが僕は悔しいんだってことを…



「チャンミナ?」



ヒョンの声はいつもと同じ…心配した弱さや苦みも感じられない囁くような優しい声



「本当に大丈夫なんですか?」



「大丈夫大丈夫…まあ明日詳しい検査だから」



「──何時からですか?」



帰ってきた沈黙の意味を無視して問いただす


「ヒョン」



「お前はとりあえず事務所に行ってくれと言われてたろ?」



座っていたベッドから立ち上がりイライラと髪の毛をかきあげる



急なスケジュール調整に明日は大騒ぎだろう


いくら何でも急に単独の仕事が入るわけないし…



雑誌やテレビの収録は全てキャンセルになったとさっき聞いたばかり



近々行われるファンとの列車旅行の打ち合わせとツアーに向けてのレッスンが入っていたはずだけどそんなのどうでもいい、という言葉を無理矢理飲み込んだ



「…終わったら行きます」



もう一度 行きますから、と強い口調で宣言すると電話の向こうでヒョンがかすかに笑い声をあげた








翌日事務所に行くと案の定バタバタと忙しく飛び回ったり電話の対応に追われているスタッフさんを尻目に僕自身は大してやることがない



公式な発表はまだだけどヒョンのニュースはもう知れ渡っていて会う人会う人にヒョンの具合を聞かれたり



事務的な用事を終え急いで病院へ向かう途中ふと眺めるレッスンルームでは後輩のグループが真剣な眼差しで汗を流している



その姿に懐かしさを感じ足を止める



一心不乱になれる時期なんて実はそう長くない



好きな事をしているはずでもいつしかそれが当たり前になって最後には義務になり…



現実と折り合いをつけながら夢を夢のまま保つには努力が必要だ



誘惑も多い…美味しい話や魅力的な誘いの何が真実で何が嘘なのかわからなくなってしまうことも



歩き出しながら考える



僕は運が良かった



もちろん努力もした…何が本当に自分に必要なのか見分ける目も養ってこれた



でも何より僕にはヒョンがいた



常に夢に向かって努力する人



夢を夢物語で終わらせずに現実に叶えてしまう強い力と意思をもった人が常に隣にいてくれた



常人では考えられないようなスケジュールとレッスンを終えてなお夜中に一人でレッスンして脚を怪我してしまうような人が…










病院に着くと急な不安にかられてしまう



教えて貰った病室のドアを静かに開けるとヒョンが笑顔で出迎えてくれたのでほっと胸をなで下ろした



挨拶をしながら観察する



無理してるんじゃないか…本当は無理して作った笑顔じゃないのかと



ヒョンの笑顔も声にも不穏な陰りはなく明るく屈託がなかったけれどだからこそ僕は邪推してしまう



本当になんとも無いならもっと淡々としているんじゃないかと思って…



「本当にごめん」



挨拶のあと唐突に頭を下げられてその真剣さに胸が痛んだ



「謝らないで下さい…それより大丈夫なんですか?」



「大丈夫だって」



ベッドに起き上がった腰から下に掛けられたブランケットが巧妙に足全体を隠している



足首のギブスの盛り上がりについ目がいってしまうのをこらえて手近な椅子に腰掛けた



「なんか癖になっちゃってるみたい…」



僕の視線に目ざとく気付いたヒョンが口を開く



「──足首ですか?」



ヒョンは頷いて



「…馬鹿やっちゃったな」



「靱帯ですよね…ヒョン本当に大丈夫なんですか?」



僕の返事は少し早すぎるし少し深刻過ぎるトーンでヒョンにまた大丈夫だよなんて言わせてしまって



「なんだって信じてくれないのかな」



なんて明るく振る舞うヒョンの姿に一抹の不安を抱えながらも気持ちが穏やかに晴れていくのを実感した…







ややあってマネージャーが看護婦さんと現れて挨拶もそこそこにヒョンに詰め寄った



「入院しないってどういう事なんですか」



マネージャーの言葉に驚いてヒョンを見ると涼しい顔をして大袈裟だよなんて



「先生も大丈夫だって言ってたし」



「だからって…だいたいどうするんですか一人で色々大変でしょうに」



何とかなるって、なんてヒョンの返事はいい加減だけど有無を言わせない感じで



食事…はまあ何とかなるとしても着替えはどうする、風呂はどうする、だいたいじっとしてられるのか、なんてマネージャーの必死の説得もどこ吹く風



僕は内心ため息をついた



何かあったら…と思うと心配だしこのまま入院して欲しいと思う



でも…



ちょっとした風邪でもすぐに医者に行く僕と違ってヒョンはあまり病院が好きじゃない



よく知らない人には逆に見えるかもしれないけどヒョンは僕より大分病気も怪我も多くて


重症化してしまうことも多い…いつも限界まで頑張ってしまうからなんだろうけど



歌手としては致命傷な喉の手術を乗り越え



舞台でスタッフのミスでおこった事故からの腰痛は今でも時々サポーターをしたり



足首は前にも…と思い出して恐怖にかられる



怪我した一方の足をかばって結局両足首を傷めてしまった時のことを思うと本当に無理しないでこのまま縛り付けてでも安静にしていて欲しいと思う



でもその一方で何年か前過労と心労で倒れた時



見舞いに行って帰ろうとする僕にポツリと呟いた



僕も帰りたいな…



思わず振り返ると



病院は嫌いだよ



そう言って悲しく微笑んだ…



ヒョンにとって病院は軽い怪我や風邪であわよくば休んでしまおうかなんて場所じゃなく


まさに生死の境目や進退を左右するような辛い出来事を象徴する場所なんだろう…



マネージャーの説得はまだ続いている



ヒョンは黙って聞いているけどもう心は決まっているようだ



マネージャーも可哀想にな、と思った



一度こうと決めたら周りのどんな意見も忠告もヒョンの決意を揺るがすことは難しい



最も昔はもっと専制君主だったように思う…



けれどもそれはヒョンが我が儘だからとかでは全くなくむしろ反対で



そうでもなければメンバーが多くて雑多な意見がまとまらなかったから…その代わりにヒョンは自分の意見が間違っていると思えばすぐに謝って撤回したしスタッフさんや会社の人との交渉や何もかも全部一人でこなしていた



僕達はいつもそれが当然だと思っていた



僕は皆の前で自分の意見や考え…ああしてほしいとかこうしたい、とかを言った事は無かった



ヒョンに意見を求められても黙って下を向いて首を振っていた



どうせ僕の意見なんて通らないだろうと思っていたし何より



その方が楽だったから…




2人になって初めておずおずと僕が自分の意見を述べると瞬間ちょっと意外な顔をして



すぐに大きく破顔した



その刹那僕は悟った



ヒョンは待っていてくれたんだな、と



僕がそうやって自分から意見やアイデアや心で思うだけの欲求を言葉に出来る日を待っていてくれたんだ…







「ちょっといいですか」



堂々巡りの説得でその場に立ち込めた重い空気に思わず口を挟むと2人とも怪訝そうに振り返った